読書くん①:後期平成の漫画で終わらせたくない

闇金ウシジマくん』が終わった。

先に言っておくが僕は全然コアなファンではない。読み始めたのは1ヶ月くらい前からである。「くそおもしれえな」と思っていたらもうすぐ連載終了になると聞いて焦って全部読んだ。
というか今朝始発で渋谷来て4Fで3時間パック→コンビニ立ち読みで追いついた。

連載開始が2004年で終了が今年の3月というと、連載期間の15年はちょうど後期平成の期間にあたる。ITバブルの崩壊、リーマンショック年越し派遣村、ロスジェネ、プレカリーアート運動、3.11、生活保護不正受給問題など平成後期の暗い経済/社会問題と絡めて評論するのはきっとどかの経済評論家や社会学者がやってくれると思うのでここでは書かない。

社会学ウシジマくん

社会学ウシジマくん

(こういう本もあるよ)

少なくとも僕にとっては、そんな風に論じて納得して消費されるような作品ではない。

(と、ここまで書いて思ったけれど、ウシジマくんにはイデオロギー的な政治問題はあまり取り上げられていないのかな。SEALDSとか、サウンドデモとか、憲法9条とか、ヘイトスピーチとか。沖縄はちょっと出てきた。)

ウシジマくんの世界観が身体に入りすぎて、ふとした瞬間に目の前の風景がウシジマくんの絵に見えることが多々あった。

それは地元の交差点の信号待ちで、3人の警官に見守られながら4人のおばあちゃんが手作りのダンボールプラカードを掲げて笑いながらのろのろと楽しくデモ行進をしている様子を見た時とか、深夜のマクドナルドで「当店は飲食店ですので」と跪いた店員に言われて「凍えちゃうよ…」と苦笑いしながら退店させられる異臭漂うホームレスをきゃははと笑う女子2人の崩れた座り方を見た時とかである。

ウシジマくんの絵はリアルだと思う。でもそのリアルは現実そっくりかと言うとそうでもないと思う。

それは、新海誠的な、カラフルで彩度の高い過剰に美しい新宿とはまた異なる、現実とは異なるリアルを感じさせていたと思う。

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見慣れた風景をまるで初めて見るように鑑賞者に知覚させる表現を異化と呼ぶが、まさにウシジマくんは僕に異化効果を与えていた。

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そしてこれは、モノクロの画面だからこそ生起した効果だと思っている。正直、カラーページは、モノクロページより現実との色数でいったら近いはずなのに、よりリアルには感じなかった。

雨上がり後の濡れたアスファルトの光沢があんなに色っぽく描かれていた漫画を僕は他に知らない。

浅野いにお花沢健吾ともまた異なる、スラム、というかドヤ街と倉庫とゴミと鉄と死体が散在する風景が、今後見られないと思うと辛い。

ウシジマくんが倒れた白線とフェンスと室外機も、数ヶ月後には認識から遠ざかり、背景に退いてしまうと思うと虚しい。

「未経験からのエンジニア転職で明るい未来へ!」というキャッチコピーに煽られた結果ブラック企業社畜と化した「エンジニアくん」とか、故郷に帰って役に立つとは思えない労働をさせられている「外国人労働者くん」とか、手取り13万円の「ヘルパーくん」とか、まだ連載が続いていくなら読みたい話がたくさんあった。

ニギニギという音がなるべく長く聞こえる耳でありたいな〜〜〜

みたいな感じで

今後読書くんというカテゴリーで読んだ本について書いていこうかと思いました。

ということで、エンジニアくんというアカウント名はここから考えたんだよ〜というエントリを勢いに任せて書いてみました。